2020年度東京大学大学院大問Ⅲ(質的研究) 回答例

2020年度

東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻臨床心理学コース

問題Ⅲ(質的研究の問題)過去問

 

 

 

 

 

 

 

 

回答例

 質的研究では「問題」「方法」「結果」「考察」といった伝統的なセクション構成であっても、各セクションに書かれる内容は量的研究とは異なる場合がある。

 「問題」のセクションでは論文のテーマや扱う問題を共有することが目的とされる。このセクションにおける量的研究との違いとして、研究設問の生成の方法とそれにかかわる先行研究の扱い方が挙げられる。量的研究では通常、先行研究を検討しその中から研究設問を取り出していく、というアプローチがとられる。一方で質的研究では、研究設問は実践や研究の過程で自分の経験から生じることが多く、問いの生成自体に先行研究が関わらないこともある。その代わりに質的研究では、研究設問が自分の経験だけに関係するだけでなく、ある程度の広がりを持つことを示すために先行研究を用いることがある。

 「方法」のセクションでは、研究の方法や手続きについて述べられる。このセクションでも2つの研究手法によってその意義が異なる。量的研究では、読み手による結果の追試を可能にすることがその意義となる。一方質的研究においては、研究設問と結論のつながりについて読み手が反証したり別の解釈を行えるだけの情報を開示しておくことが、その意義になる。それゆえに、質的研究の論文では量的研究の論文より機械的には書けず、その研究の内容に即して豊かな記述が必要である。

 「結果」のセクションおよび「考察」のセクションは、量的研究では別々にされることが一般的である。それは「結果」のセクションにおいてはデータとその統計的処理の結果という客観的情報が主に求められ、その解釈が「考察」で求められるためである。しかし質的研究においては本来多義的な言語データが根拠資料となることが多く、純粋なデータのみではなく、論文の筆者の解釈も同じところに含まれる。そのため「結果と考察」としてひとまとまりにされることが多い。

 

参考資料

 

 

今回の過去問は以下のリンク先から購入可能です。

文学部複写センター (biglobe.ne.jp)

 

*このブログでは心理系大学院(公認心理師臨床心理士カリキュラムに対応した大学院)の過去問の回答例を挙げています。回答は独自に作成したものであり、正答を保障するものではありません。試験対策の参考にお使いください。